こんな楽譜、こんな本
- 2023.02.19 Sunday
- 20:02
少しずつ春の気配が濃くなってきました。
昨年まではあまり気にしていなかったのですが、
今年はどうも花粉症がはっきりと出てきそうな予感がします…。
早朝にでるくしゃみの連発もそのひとつなのだと思われますが、
食事中にも透明な鼻水がタリ〜と流れてくるのが悩みです。
そのまま食べ続けていると
ちょっと〜、食欲失せるから何とかしてっ 鼻かみなさいっ
とトイメンに座しているカヤニカままに叱責されます。
食卓ではともかく、
4〜5月に企画されているコンサートの演奏中に鼻が垂れてくると困るなあ
と心配しているところです。
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閑話休題、新刊の楽譜が届きました。
カール・チェルニーのフーガ集です。
今月2日に春秋社より刊行されたばかり、まだ刷り上がったばかりの楽譜です。
カール・チェルニー『12の前奏曲とフーガ──フーガ演奏教本 作品400』(春秋社)
チェルニーと言えばピアノ教室の生徒たちが忌み嫌う「練習曲」の作曲家。
「チェルニーの練習曲をやらされたことがない」という人はほぼ皆無と思われます。
チェルニーは膨大な数の練習曲を残していますが、明晰に構築された秀逸な教材です。
音楽的にも特に悪いところはないのですが、楽しくない。幸せになれないのです。
この試練に耐えた者にこそ栄光が訪れる
といった、スポ根、スパルタ的な傾向があるのかも。
しか〜し。チェルニーは何もイヂワル目的で練習曲を量産したわけではなく、
しっかりとした手ごたえのある芸術作品も創作しています。
何と言っても、知る人ぞ知るベートーヴェンに師事していた人ですからね。
そしてかの技巧派、フランツ・リストの先生でもありました。
じつは、すごい人だったのです。
《演奏教本》とは銘打ってあるものの、なかなかの力作のようにお見受けしました。
私も初めて出会った曲ですし、おそらく日本初登場だと思います。
フーガというジャンルの作品は、初見演奏に慣れた者にも手ごわい存在です。
弾けるようになるまでに結構手間ひまがかかります。
というわけで、この曲集に関しては、すでに音源(世界初録音!)も準備されています!
https://diskunion.net/classic/ct/detail/1008579807
「人の弾かない名作を弾いてみたい」という方におすすめです。
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隠れた名曲と言えば、フリードリヒ・クーラウという作曲家も忘れてはいけません。
ベートーヴェンと同じ時代に活躍した人です。
フルーティストにとってはスタンダードのレパートリーの作家ですが、
ピアニストには「ソナチネの作家」でしかない、かわいそうな存在です。
ところがクーラウはソナチネ以外にもピアノのソロ曲をたくさん創作し、
こんなにたくさんの楽譜が出版されているのです。
ソナタ、変奏曲、小品集などなど何でもござれ。
発行元はインターナショナル・フリードリヒ・クーラウ協会。こちらをご覧下さい。
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ことのついでに最近読んだ本のうち、特に感銘を受けたものを2冊ご紹介しておきましょう。
1冊めはこれ。ちょっとお堅い学術書です。
M.A.ボンズ『ベートーヴェン症候群──音楽を自伝として聴く』(堀朋平・西田紘子訳、春秋社)
私たちはクラシックの作品を聴くと、そこから作曲家の人生や精神性を聴きとろうとします。
演奏家としても、その表現をめざして切磋琢磨するのが大きな課題です。
そこがおもしろいところではあるのですが、
そうしたアプローチはベートーヴェン以降になって発生したものなのだそうです。
「芸術作品の理解度は、演奏家と聴衆の認知力に委ねられている」というわけ。
それまで、つまりハイドンやモーツァルトの場合はそうではなく
聴衆が理解できない原因は、作曲家にある
というスタンスだったということです。
お笑い芸人が必死でコントを作っても、客が笑わないのは芸人がわるい、
という状況と似ていますね。
当初、作曲家は芸術家ではなく、職人だったのです。
そんなことが述べられている、どちらかというと専門家向けの固い本ではありますが…。
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そうではなくて、娯楽としてもどっぷり楽しめちゃうのは、こちら。
中田朋樹『彷徨──フランツ・シューベルトの生涯』(鳥影社)
シューベルトの人生を描いた小説です。何と941ページの大著。
手に持つと重いです。厚くて枕にできます。
でも、あまりにおもしろくて私は思わず一気読みしてしまいました。
100%ノンフィクションの伝記ではないのですが、
司馬遼太郎の歴史小説とおなじようなもの、と考えてください。
さもありなん、という生き生きとした描写がたまりません。
でてくるウィーンのストリートをグーグルマップで検索すると、ちゃんと見つかります。
ウィーンに行ったことのある人にとっては
あそこか〜。うわ〜、たまらん
という感激も。
ぜったいもう一度行きたくなります。
なお、かなり濃厚な性描写も含まれていますので、
《即興曲》や《楽興の時》などを練習中の若者に与える前に、
保護者や指導者による事前の内容確認が必須です!