ソウル雑感

  • 2014.08.22 Friday
  • 12:18

数日間でしたが、ソウルに行ってきました。
コンペティションのピアノ部門審査です。
 
2014亜洲音楽大賽
The Asia International Music Competition

 
という名称のコンクールで、毎年この時期に催される、
アジア国籍の子供たちを対象にしたコンペです。

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当初は《アマデウス・ピアノコンペティション》という名前だったのですが
一昨年から名前も一新、本格的に始動し、
初回の開催地はクアラルンプール(マレーシア)、昨年が台北、そして今年がソウルでした
毎年アジアのどこかの国で催されることになっています。
 
昨年はピアノ以外にヴァイオリン部門も追加されましたが、
今年はそれらに加えて歌とギターの腕前も競われました。
歌部門とギター部門の参加者に、さすがに小さい子供はいませんでしたが…。

代表として仕切っているのは台湾師範大學音楽科のピアノの先生で、30年来の知り合いです。
こういう企画を立ち上げるのが長年の夢だったそうで、
私財をつぎ込んでがんばっています。
 
知遇を得たことから私は毎回かかわることができ、
アジアのいろいろな国の雰囲気を楽しんでいます。
各国の審査員の先生方との会話からはさまざまな音楽事情も発掘でき、
新鮮で興味深いです!

審査中。大きな会場です。
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ベートーヴェンのピアノソナタ《テンペスト》。確かに暴風雨のことなんですがね…。
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まずはそれぞれの国や地方で予選が行われ(音源審査の場合もあり)、
そこを通過した子供たちが今回のように一都市に集まって腕を披露するのですが、
親も同行した国際家族旅行となります。
そんなに大それたレベルではないにせよ、各国の予選を通過して、晴れてアジア大会に出場するわけで、親子ともども身も心も引き締まる気分でしょう。

お辞儀の仕方もいろいろです。身体、柔らかいですね!
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出場者は年齢や音楽教育環境などを考慮したカテゴリーに分けられています。
日本にもそういうコンペティションがあり、
全日本ピアノ指導者教会(通称ピティナ)が毎夏開催しているものが有名です。
 
私は本来ならばこのアジアコンペティションの宣伝をもっとやって
日本からの参加者も勧誘すべきなのですが、
“ピティナのコンペ”と同時期に開催されているので簡単ではありません。
また生まれたばかりのアジアコンペでは残念ながら運営面における不具合も多々残っており、
実はまだ手放しでは推奨できない黎明期なのであります…。
 
案の定、今回も準備段階でいろいろな修羅場があったようで、
ソウルで開催されたのにもかかわらず韓国の審査員はゼロ、
韓国からの出場者もピアノに限ってはゼロでした。
開催日数も当初の予定より大幅に短縮されました。
 
かなりきな臭いなあ…。
 
大多数の出場者は中国、台湾から。
マレーシアやタイ、あるいはインド系の子供の参加もありました。
 
日本ではなかなか手に入らない男の子用の燕尾服。ついでに靴とソックスも準備したいですね!
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演奏を聴いていると、いろいろ考えさせられます。
一番の問題は「教育の質」のこと。
 
大都市で優秀な教師に出会えた子供はラッキーなのですが、
「え〜、何これ?」という演奏もあり。玉石混合です。
子供の才能より先に、先生の知識と能力のほうが心配になってしまうことも。
 
日本国内でもこうした問題がないわけではないのですが、
昨今では生徒同士、先生同志、そして親同士の情報交換も盛んになり、
あまりに突飛で的外れな演奏は淘汰されるようになりました。
 
でも「平均的」って、聴いていてあまりおもしろくないです。
「目が醒めるぐらい上手な演奏」とともに
「目が醒めるぐらいおかしな演奏」も
たまにはいいですよ! 楽しめます。
 
今、アジアの国々には元気があります。
未曾有の老人大国に向かって突っ走る日本とは違って
子供の数も多く、生き生きとしています。
大人たちもいろいろな夢をもっていて、
「こうなりたい」という希望とともに生きていることが感じられます。
「未来がある」っていう感じです。
 
なるべくたくさんの子が幸せになるように、トロフィーがたくさん準備されていました。
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クラシック音楽を勉強するのもブームになっています。
タイやベトナムにもすばらしい環境の音楽大学が開設され、
欧米の先生が多数滞在して教えています。
 
誰にもわかりやすいモーツァルトやベートーヴェン、そしてショパン…
でもみなかなり大昔のヨーロッパ人です。
クラシック音楽は、これからどういう価値をアジアの文化に与えてくれるのでしょうか。
ヨーロッパ起源の奥深い伝統芸術としての哲学は、今後どういう形で保たれるのでしょうか。

ちょっと心配、でも大いに楽しみでもあります!



 
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ペイパーチェイス(白水社)

  • 2014.08.01 Friday
  • 09:02

書評シリーズ第2弾です。紀伊國屋書店の「書評空間 」の継続バージョンと思って書きました。書評空間では「書店で買えるもの」しか対象にできなかったのですが、「打ち出の小槌」でその制約はありません! ちょっと古いが、面白い本です。中古品はア●ゾンに多数出品されており、簡単に手に入ります。
 

今まで書き溜めてきたものと同じ「である調」なので少々雰囲気が異なりますが、ご寛容下さい。
 



ナイジェル・ルイス『ペイパーチェイス』(中野圭二訳、白水社、1986
 


集団的自衛権行使に関する話題が巷を騒がせている。「戦争になっても自らは何もできず、同盟国の支援を期待する」という状況は問題だとしても、「戦争に巻き込まれないための抑止力である」という政府の説明を100%信じている人はあまり多くなさそうだ。「ひとたび戦争になったが最後、歯止めははずれるに違いない」という心配の方がずっと大きいように感じる。

 

私自身も戦争は体験していないが、ヨーロッパで生活していた頃に勃発した湾岸戦争の影響、旧ユーゴスラヴィアをめぐる戦渦、そしてベルリンの壁の崩壊によって象徴される東西の対立の消滅によって引き起こされたさまざまな変化は、身を以て体験した。私が住んでいたウィーン(オーストリア)はユーゴスラヴィアと国境を接しており、東側諸国の人々が西側に流入する際の代表的な入口のひとつだったのだ。

 

戦争は無秩序をもたらす。第二次世界大戦の際に他国を蹂躙しようとした国々の横暴は、我が国の行為も含め、身勝手そのものだったと言えるだろう。またヒトラー率いるドイツがヨーロッパの列国を次々と占領し、略奪した至宝や文化遺産の数は計り知れない。そのドイツも劣勢になってからは各地が空爆されるようになり、その戦渦から守るため、多くの資料や文化遺産が各地に疎開された。本書はそうした希有な運命に翻弄された文化遺産をめぐるノンフィクションだ。話は過去のモーツァルトやベートーヴェンその他の大作曲家たちの貴重な自筆譜を軸に展開される。ベルリンからポーランドに移動された、「グリュッサウの楽譜」というキーワードで呼ばれるコレクションである。そこにはモーツァルトのオペラ『魔笛』やベートーヴェンの『第九交響曲』の楽譜も含まれていた。

 

戦争の最中に木箱に詰められて搬出された品々は、その量もさることながら、何がどこに移動された、というリストさえもが不充分な場合が多い。保管場所も人里離れた城の中や修道院の祭壇の裏など、なるべく人目につきにくいところが選ばれた。疎開先が戦災に遭い、焼失してしまったものも数知れないが、疎開場所情報の伝承が曖昧なために探索できなくなってしまったものも数多い。個人が違法に秘匿したものも多々あるだろう。

 

こうしたかけがえのない、金銭には換算できないような文化遺産の所有権が最終的にどの国にあるのか、誰がどのような権限でそれらを管理するのか、所在は明らかになっても、それが果たして公開されるのかということは、戦後処理をめぐる複雑な政治状況の下、解決の糸口がつかめない膠着状態に陥ってしまうケースが散見された。これらを調査し、発見、そして公開へと至る道のりは険しかった。その経緯は本書に詳しいが、話はなかなか思うように展開せず、じらされる。しかしそれが戦後の現実であり、実態だったのだ。

 

第二次世界大戦後の世界は「西側」と「東側」に分断された。このふたつの陣営の力比べだった「冷戦」はすでに過去のものとなり、一世を風靡したジェームス・ボンドの「007シリーズ」の映画も色褪せてしまった。今の学生たちにはとっては、共産圏の象徴だった「ソ連の存在」そのものが、すでに実感できないものになってしまったようだ。ましてや「東側へ入国する際の国境の陰鬱さ」「東側諸国の貧しさ」などは、紙の上での絵空事となりつつある。これは当時「東欧諸国」と呼ばれていた国々で生まれた若者でも同様だ。「両親からそういう話を聞きました」という世代が増えている。今の若者にとっては臨場感に乏しい本かも知れないが、「昭和生まれ」の世代にとっては、当時の社会情勢を回顧できる貴重なドキュメンタリーだろう。

旧東ドイツへの国境(1980年代。かやにかパパ撮影)


東西の対立が消滅して「東側」が開かれた今、失われた文化遺産の状況はどのように変化したのだろう。その後「再発見」された資料も数多く出現している。それでもまだ見つからないまま、どこかに秘匿され続けているものも、あるいは誰も気づかないまま埋もれてしまっているものも、まだまだ存在しているに違いない…。



 

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